【2014秋アニメ】「天体のメソッド」の脚本がすごい【今期のおすすめ】
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どうも、今日も今日とてアニメオタクな日々を満喫しています、あいたんです。
突然ですが、現在日本では毎クール数十本のアニメが新たに始まり、放送されています。そして、筆者はそのほとんどの1話をチェックするように心掛けています。そのため、日頃誰かしらに会うとだいたい「今期は何がおすすめなの?」って聞かれるので、ならいっそここに書いてしまおう、と思い立ったわけです。ということで、過去に見たアニメの中から紹介する「○○なアニメ5選」のコーナーとは別に、現在放送中の作品の中から気に入ったアニメを「今期のおすすめ」として不定期で紹介していこうと思います。
今日紹介するのは「Kanon」で知られる久弥直樹氏原案・脚本のアニメ、天体のメソッド(そらのめそっど)-wikipediaです。
今日は特にこのアニメの脚本・演出に着目してお話ししていきたいと思います。
脚本の役割
「脚本」というと、皆さんはどういった役割を思い浮かべるでしょうか。お話を作る人、ストーリーを考える人?……それでは50点です。TVでシリーズものとして放送されるアニメでは、各話で脚本を担当する人物が異なる場合がほとんどですが、その場合EDにクレジットされる「脚本」というのは、少し乱暴な言い方をしてしまうと「話数ごとに”すでに出来上がっただいたいのあらすじ(プロット)”をもとに、柱書き・台詞・ト書きの形式で記されたテキストを起こす人」のことです(どの程度あらすじが決まっているかは作品によっても話数によっても異なるでしょうし、各話脚本の自由度が全くないというわけではもちろんないでしょうが)。つまり、「お話を作る人」という面もありますが、キャラクターの仕草や台詞などの演技に関わる部分も含めて、文章による設計図を作る人でもあるわけです。すなわち、演出と密接に関わる役割であることがわかります。そして、脚本と対になる役割が演出です。こちらは画面の設計図(コンテ)を作ったり、設計図に従って演技を指導する(アニメーターが作画する際や、声優さんがアフレコする際に意図を伝える)人です。
では”あらすじ”は誰が考える or 決めるのかと言うと、それは作品によってまちまちで、各話の脚本家のまとめ役としてクレジットされるシリーズ構成の人だったり、監督だったり、プロデューサーだったりします。いずれにせよ、誰か一人によって作られているわけではなく、複数の人が関わることによって出来上がるわけですね。シリーズ構成というのは、各話脚本の総責任者みたいなもので、一番偉い脚本家だと思ってもらえればといいと思います。
ちなみに「天体のメソッド」では原案・脚本久弥直樹となっているので、主にストーリーを考えたのも、実際に脚本を起こしたのも久弥氏であると推察できます。
「天体のメソッド」の脚本のポイント
上記を踏まえたうえで、「脚本」について筆者が常々思うことがある。それは、登場人物が今どういう感情なのかということを、いかに台詞を使わずに場面や話の流れによって表現することができるか、というのが脚本家の技量なのではないかということ。
せっかく台詞使わずに気持ちを表現できてるのに、重ねてキャラクターが台詞で説明しちゃうと、少し萎える。面白いギャグでも本人がその面白さを解説しちゃったらつまらなくなるみたいな
— あいたn (@aitanprpr) 2013, 10月 31
ここまで、前置きが長くなりましたが、つまるところ本作「天体のメソッド」で注目したいのは、ストーリーライターとしての久弥直樹ではなく、各話脚本としての久弥直樹だということです。彼の脚本の特徴について、1話のある台詞をもとに解説していきたいと思います。この作品では、最小限の台詞で描かれる、感情をあえて言葉にしないということの洗練された美しさを体感して欲しい。
「だからって……」という台詞
これは1話の中盤あたりの場面。主人公乃々香が、大切な母親(故人)の写真が入った写真立てをノエルが壊してしまったと勘違いし、ノエルに強く当たってしまう。そして、ノエルが出ていってしまった後の表情と台詞である。
この台詞、「だからって……」という言葉だけではその意味がよくわからないと思うので、それまでの話の流れや演出に着目することで読み解いていきたい。「だからって」の後に続く言葉は何なのか。
こちらは1話のアバン(冒頭)。父の仕事の事情によって北海道のとある街へ引っ越すことになった二人家族である。長距離移動のためか、新天地への不安のためか、不満を口にし表情からもわずかにイライラが見てとれる乃々香。
OP後。荷解きが終わらない部屋で朝を迎え、段ボールの中で鳴り出した目覚ましを止めようとして慌てる乃々香。そして朝食を作ろうにも引っ越したばかりで冷蔵庫の中身はほぼ空っぽ。心が落ち着かない様子が表情や場面によって表現されていく。
そして、ついに現れる謎の少女ノエル。7年ぶりに乃々香に会えた!とこの表情である。
しかし、乃々香のほうにはその記憶がなく、また土足で部屋に入ったノエルのおかげで部屋の中は泥だらけ。ノエルとは対照的に困惑の表情を浮かべ……
次の瞬間にはこんな小さな女の子に向かってイライラむき出しの顔を見せてしまう。二人の気持ちのすれ違いがよくわかる。ここまでだと、乃々香がイライラしてばかりで嫌な奴かと思われてしまいそうなのでフォローしておくと、根はすごくいい娘で、ノエルの泥だらけの服を洗濯してあげたり、この後のシーンでは顔の泥も落ちているのでおそらくお風呂にも入れてあげたのだろう。おじさんはそのシーンも見たかったぞ。
そして事件は起こる。乃々香がノエルにご飯を作ってあげようと買い物に出かけて戻ってくると……
そこには壊れた写真立てとノエルが……
ついに冒頭から徐々にたまってきた不安とイライラで感情が爆発してしまう。「もう二度と私の前に現れないで」という言葉を吐いてしまう。そして、ノエルは出ていってしまった。
「ノエル……」とささやく、一人ぽつんと残されてしまった乃々香。部屋の床は掃除してもまだうっすら汚れていてノエルの痕跡が残っている……
そして先程のカットとなり、「だからって……」とつぶやく。
その次のカットがこれ。割れてしまった写真立て。「だからって」、なんなのか。ここまでの流れから後に続く言葉を推察すると、
「だからって、許さないんだから」
であると私は考える。乃々香は言ってもまだ中学生、多感な時期である。感情の流れを追っていくと、イライラが高ぶっていきそれが爆発する様子と、その後に訪れる寂しさと、それでも意地を張ってしまう少女の繊細さというのが台詞を使わずともきちんと伝わってくる。そして何より、一見言葉足らずに聞こえる「だからって……」という台詞が、話の展開や表情のアップを多用した演出によって、多感な女の子の感情がこもった意味のある台詞になっている。ここで特筆したいのは、たしかに最小限の台詞で感情を表現している脚本そのものも素晴らしいが、それと同等に素晴らしいのが、最小限の脚本であっても見ている側にきちんと伝わるよう、映像によって補完することに成功している迫井監督の演出である。この絶妙な脚本と演出のバランスこそ本作最大の魅力と言える。脚本と演出はコンビであって、どちらか片方だけで語ることはできないのだ。
以上ように、感情を台詞で説明するようなことを極力避けて、場面を演出することによって完成されていく、というのが久弥脚本の最大の特徴であり魅力だと感じた。
まとめ
「天体のメソッド」では毎話2つか3つくらいはこのような繊細な描写が見られ、毎週楽しみにさせてもらっています。このアニメはおそらく1クールで、残る放送もあとわずかですが、来たる12/8(火)にはニコニコ動画で1~10話の一挙放送が行われるようなので、まだ見ていない方はそちらを是非チェックしてみてくださいね。
最後に宣伝ですが、もし興味が湧いた方がいらしたらこの前筆者が書いたこちらの記事(学生時代300本以上アニメを見た筆者が選ぶアニメベスト30)も見てみてください。
[https://nikkech.com/biography/post-3935/]